魔物との戦いで疲れてたラルグさまは夕方までグッスリ寝てた。
で、目が覚めたラルグさまと一緒に1階のリビングに降りてみたら。
ご家族だけじゃなく、お他所の屋敷で暮らしてる侯爵家の親戚一同みたいなひとたちがいっぱい集まってきてた。
異世界人のボクが魔法を使えたのは、そのくらいの重大事で。
もう一族ぐるみで検討しなきゃいけない案件ってことみたい。
2つあるソファセットには、ご家族と、親戚御一同さまが家族ごとに座ってる。
いちばん上座にいた侯爵さまの左右には奥さまと大旦那さまがいて、右隣にクライアンさまとマルコットさま、左隣にエリノーラさまとラルグさまとボクって配置だった。
「いやはや……しかし。ラルグリートが7色の異世界人を見つけてきたと聞かされた時にも驚いたが。まさか全属性使いだったとはなぁ」
侯爵さまの弟で、ラルグさまにとっては叔父さんにあたるらしい整った頬ひげを生やした男のひとが、片手で顎を擦りながらしみじみと言った。
「だがそうなると厄介だぞ? 下手をすれば王家への謀反を疑われかねん」
すると大旦那さまも渋い顔で両腕を組みながら頷いた。
「そうでなくとも王弟殿下がラルグリートを敵対視しておるからなぁ。予期せぬ知られ方をすれば、力を隠匿していたとして、格好の攻撃材料にされるだろうて」
「そもそも、7色の出現は伝わっているのか?」
「いや、まだだ」
侯爵さまは首をふってボクを見る。
「見てのとおりの容貌だからな。他の貴族に知られればたちまち攫われて、不埒者どもの饗応の場に引きずり出されることは確実だろう。いずれ公表するにせよ充分な調教を終えてからと考えていたが」
「だがこうなっては、伏せておくほうが悪手だろう?」
「そうだな。せめて陛下にはお知らせしておかねば、要らぬ誤解を受けることになる」
深刻そうに交わされる会話をきいてて、ボクは俯いた。
(う~~~ん……やっぱり、大変なことになっちゃったなぁ)
便利そうだから魔法が使えたらって思ってたけど。
さっきの回復魔法とか、異空間収納とか実行できたことから考えると、ボクはけっこう幅広く魔法が使えちゃうみたいだし。
戦争とか、魔物と戦うとかそんなのは怖くてできないけど、魔力譲渡も含めた回復役って考えるだけでも相当な戦力だってことはボクにも分かる。
それに、王さまに成り代わろうとか、権力が欲しいとかって考えるひとたちがボクの存在を知っちゃったら、利用しようって考えるの目に見えてるもんねぇ。
しょんぼりしてたら、肩を抱いてた手がポンポンと頭を撫ぜた。
「王には明日、俺が直接行って伝えてきます」
「ラルグリート?」
「全属性使いと分かった以上、ユウトはただの異世界人じゃない。この世界にとっては貴重な戦力であり、むしろ賓客として遇されるべき存在ですよ。その明確な差をご理解いただければ、陛下もあえて奴隷に留めよとは仰られないはずだ」
「陛下は英明な御方だからな。それで良かろうが。問題は王弟殿下とその配下の貴族たちだ。あの頭の悪いサルどもは全属性使いと知っても、異世界人=奴隷という考えを改めようとせぬだろう」
「う~~~む」
「なんぞ目立つ功績を立てて、世間に全属性使いの有用性を知らしめれば無下にされることはなくなるだろうが。そう都合よく大戦などは起こらぬだろうし」
「魔素が薄いこの時期に起こってもらっては困るわ!」
喧々とご親戚の方々が言いあってると、向かいで腕組みをしたまま考えてたクライアンさまが、ふっと顔をあげてラルグさまをみた。
「なら、いっそラルグの嫁にすればいいんじゃないか?」
「「「「「は?」」」」」
ぐりんっと音がしそうな勢いでご一家がクライアンさまを見た。
ボクも思わずきょとんとなった。
よ、嫁??? ボク男だけど……?
そりゃまぁ、元の世界でも外国とかでは同性婚もOKだったけど。
えらい貴族さまの中でもそれってアリなの???
「ラルグはもともと女の嫁になど興味がないんだろう?」
「……ええ……まぁ」
「ならば嫁が男だろうが大した問題ではあるまい。妾であれば、奴隷だろうが孤児だろうが異国人だろうが、法規上は何も問題なく娶れるわけだし。ラルグの婚約者だとなれば、大半の貴族たちには手が出しにくくなるからな。
魔法一家のマルベスカが、7色かつ全属性使いの嫁を迎え入れることは、強力な魔力を持つ血を残すという意味でも願ったりというものだろう」
「そうよねぇ。子供が欲しけりゃ、わたくしが乗っかれば済む話だし」
「そういうことだ」
えええっ!!?
い、いまエリノーラさま、とんでもないことをサラッと言ったけどっ!?
乗っかるって……やっぱりボクが肉食系女子に食べられちゃうほうなの~~~!?
で、さらにビックリしたのは「その手があったか」って侯爵さまと奥さまが感心したみたいに頷いたことだった。
どうなってんのマルベスカ家!?
えらいお貴族さまのはずなのに、何かいろいろぶっ飛んでないっ!?
「―――それを……認めてもらえるんですか?」
ご一家をぐるっと見渡して、ラルグさまがニッと笑った。
オジサン、オジイサンの年代の方々はちょっとだけ複雑そうな表情だった。
でも、若いひとたちはニマニマしながら頷いてて、侯爵さまや奥さまやお兄さんたちは「ああ」と微笑んだ。
「わたしが望むのは我が子の幸福のみだ。お前がこの子を伴侶として望むというのであれば、何の否やがあろうか」
「……そうですか」
静まり返った部屋に、パチン!って小気味いい音が響いた。
シュンッ……と微かな音を立てて、ボクの首と手首から金色の枷が消える。
ラルグさまは肩に回した手で顎を掬ってボクの口にチュッとキスをしてから、ふふっと優しく笑った。
「王家に正式に認められるまでは奴隷契約を外すことはできんが。たった今から、お前は俺の婚約者になる。お前も、それでいいか?」
「っ……は……はいっ!!」
思わずラルグさまに縋りついた。
ボクがイヤだなんて思うわけない!
だって、ずっとラルグさまのお傍にいていいって、侯爵家のひとたちに認めて貰えたんだもんっ!
まだ国王さまに「いいよ」って言って貰わなきゃだし、怖い貴族たちに狙われちゃう危険が無くなったわけじゃないけど。
異世界人だからって、しょんぼりする必要なくなるってことだもんね!?
「ふん。ならばまずは、明日にでも領民登録をしなければな。国籍を得るには成人の誓約と届け出が必要だが、それは陛下のお許しを得てからでもいいだろう」
「成人の誓約?」
なにそれ? 成人式みたいなの?
首を傾げたらマルコットさまが、ふふっと笑って教えてくれた。
「我が国では、16歳の成人を迎えた時点で初めて王国民として国籍を得るんだ。それまでは家長の付属物という扱いでね。きみはもう18歳だから当然得る資格があるんだけど、それには教会へ行って誓いの儀式を受ける必要があるんだよ」
「へぇ~~~」
「まぁ、堅苦しく考えることはないよ。誓いったって「立派な騎士を目指します」とかね。そんな単純なのでいいんだから」
軽っ! それじゃ、ご町内の成人式の挨拶みたいじゃんっ!
「ともあれ、これで決まりだな」
侯爵さまが椅子に座り直して、ちょっとだけ改まった顔でご一家を見つめた。
「我がマルベスカ家は一族を挙げてユウト・クサカベを擁護し、当家の一員として迎え入れる決断をした。それによって掛かる騒動の一切の責任は、このわたし、ニコラルド・フォン・マルベスカが引き受けると誓おう」
居合わせたご一家全員がすごく真剣な顔で頷いて。
この日ボクは、この世界へ渡った異世界人として初めて、奴隷じゃなくなる道を歩み始めることになった。

