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#18 ボクって天才? たぶんチートです

ボクの優しいご主人さま

やっぱ。なんか、変だ。

ラルグさまがお出かけになったお部屋で。
暖炉前の絨毯のうえで両手を見つめながら、ボンヤリと思ってた。

オセロをしてた日から数日経ってるんだけど。
それ以来、なんだか体の中がウズウズするっていうか、血管の中を何かがめぐってってるみたいな変な感じがして、ふわふわ落ち着かない。

ラルグさまに抱かれてる最中も、体の表面に虹色の陽炎みたいなものが見えて、それを交わらせてるみたいな……不思議な感覚がしたんだよね。

別に風邪を引いたとか、だるいとか、そういう不調ではないんだけど。

っていうかむしろ満たされて絶好調?

ただ、何かしたい、何かしなきゃみたいな。
発散場所がなくて、元気が余っててウズウズするっていうか、そんな感じ。

しばらく考えてて、ボクのラノベ脳がひとつの可能性を弾き出した。


これ……もしかしなくても、魔力、なんじゃ……???


いままで全然感じなかったのに。
なんで今になって感じるようになったのかサッパリ分かんないんだけど。
こないだソファの下に転がったオセロの石を引っ張り寄せたのも、この力のせいだった気がしちゃってるんだよねっ。

でもラルグさまは「異世界人は魔法が使えない」って言ってたし。
ボクだけ何か、他の転移したひとたちと違う理由があったりするのかなぁ?

「う~~~~~~ん」

どうすれば検証できるかなぁって考えて、ボクはお部屋を飛び出した。

向かったのは図書室。
いままではずっと絵本とか、児童書みたいなのしか読んでなかったけど、ここなら魔法とか転移について書いてある本がいっぱいある。

途中でエリノーラさまに会った。
図書室の本を借りてっていいですか? って訊いてから、関係ありそうな本を片っ端から抜き出してラルグさまのお部屋に逆戻り。
暖炉の前でぬくぬくしながら、ずっとそれを読み漁ってた。


で、2時間くらい経ったところで予想が現実になっちゃった。

「あれ? これ、どっかで読んだ気がする」

ほとんどの本は難しい文章ばっかりで理解できなかったんだけど。
その中の1冊だけ魔法の説明っていうか、どうやって魔力を魔術に繋げるのかって方法が書かれた本があって、なぜだか既視感を覚える記述があったんだ。

ボクの記憶にあるのは、たしか魔法使いキャラのセリフ。
だからちょっと書き方が違うけど、説明されてる内容は……同じ??


「―――魂の周りを取り囲む光の球。その光が全身をめぐる流れをイメージして、それを指の先に集中させ……」


頭の中に魂をイメージすると、その周りを土星の輪っかみたいに、7色の球がぐるぐるしてる光景が浮かぶ。

その中の1個。
赤い光を体の隅々までめぐらせていくイメージ。
いつか読んだ本の挿絵の魔法使いがしてたみたいに左手の指を2本掲げて、そこへ意識を集中させると。


ボッ!


「わっ! ほんとに出たっ!」

指先のうえに小さな炎がポンと出て、すぐ消える。
まさかと思って他の色も試してみたら、水の玉、お団子、そよ風、光の玉、黒いもやもやがそれぞれ出てくる。
おまけに、前にラルグさまがやってたのを思い出して宙に円を描いてみたら、乳白色の鏡みたいなのが出てきて、ニュッて手が入る。


「えええっ!?」


まって! まって、まって、ちょっと待って!

なんでボク魔法が使えてるのっ!?
異世界人には魔法が使えないんじゃなかったのっ???
え、どゆことっ!?


大慌てでさっき読んでた本の続きを読み進める。
で、途中でなんとなく、どういうことなのかが分かった気がした。

この本に書いてあること、ボク、ラノベで読んだことがあるんだ!

当時ボクが読んでたお話は剣術大会で勝った勇者の冒険みたいな内容で、奴隷とか7色とかそんな設定は出てこなかったし。時代や国や土地の名前も違ってる。
絵本の神話もラノベで語られてたのとは内容が違ってたし。

魔術教本で読んだのは基礎理論みたいなことばっかりで、魔法の発動方法については書いてなかった。だからいままで全然気づいて無かったけど。
そう思って思い返してみたら、ラルグさまやご家族が使ってた魔法も、なんとなく記憶にあるものの応用って気がした。

異空間収納、立体化、飛行、操作、清浄化、回復……そうだ、そういえばっ!

ここもしかして、ボクが読んでた小説の世界なんじゃっ!?

そう考えれば、文字が英語に似てるのも、文明に共通点があるのも納得できる。
ボクだけが天才とかじゃなくて、どういう魔法かを何となく理解してるから、前にラルグさまが言ってた「魔法を生み出す回路」に繋がり易かったんだっ!

なんでボクに回路?ってのがあるのか謎だけど……。
このパターンの異世界チートも幾つか読んだことあるし、逆にすんごい腑に落ちるって気がしてきちゃったじゃんっ!

思わず興奮して「うわ~~っ」って絨毯のうえをゴロゴロしてたら、はたっと気づいた。

ラルグさまは5属性使いクインテラー
それだけでもすごく稀少で、ほかには2人しかいないって言ってた。


ボクは……7色………………7属性とも……使えて……る?


さぁ~~~~~~~っと一気に血の気が引いて、呆然としてたら。
扉の向こうで「きゃぁああっ」って悲鳴が聞こえた。

「えっ!? な、なに?」

扉から顔を出してきょろきょろ見まわすと、声がしてるのは階段の下ほうだった。
何だろって降りてってみたら、玄関ホールに10人くらいのメイドさんとか使用人さんとかがいて、足元でグッタリしてる誰かを取り囲んでた。

人垣からはみ出してた黒いズボンの足に大きな裂傷ができて、血が溢れてる。
そのズボンと靴に見覚えがあって「あっ」て声がでた。

「ラルグさまっ!」

ボクの声にぐりんとみんなが振り向いた。

慌てて駆け寄ったら、囲んでたメイドさんたちが横へずれてくれて、ラルグさまの全身が目に飛び込んでくる。

気を失ってるラルグさまの状態はひどかった。
肩にも腕にも足にも大きな爪で引っ掻いたみたいな傷があって、襟から覗く首元とか手の甲にも黒ずんだ火傷みたいなアザができてる。

血の気が引いて真っ青になってるのに、額にも首にも汗が噴き出してて、呼吸も荒くて、痛みか何かと必死に戦ってるみたいな表情だった。

「ラルグリート!」

同じく声を聞きつけたらしいエリノーラさまが階段を降りてきた。

険しい顔で駆けてきたエリノーラさまは、サッとラルグさまの傍らに屈んで、包帯とか薬とかを次々に取り出して手当てを始める。
それで溢れてた血は止まった。でも黒ずんだアザが徐々に広がってて、見るからに何か悪いものに冒されてる状態だってことは分かった。

「このバカっ! 性懲りもなく無茶ばっかりしてっ!」

腹立ちまぎれにエリノーラさまが叫んだ。

「うちで光魔法が使えるのは貴方とお父さましかいないんだから、気をつけなさいって言ったでしょうがっ! クラレット、お父さまは!? いまはどちらへお出かけなのっ?」

「と、隣町の水路工事の視察に……」

「いますぐ呼び戻して!」

「はい、かしこまりましたっ!」

慌てて通話機のある方へ執事さんが駆けてって、エリノーラさまは使用人さんたちにラルグさまをお部屋へ連れてくようにって指示する。
他のメイドさんたちもバタバタ駆け出して、ラルグさまの手当ての準備を始めた。

ボクは使用人さんが2人掛かりで運んでくラルグさまの横を付いていきながら、何かできないのかなって必死で考えてた。

光……光魔法ってたしか【治癒魔法ヒーリング】とか【状態異常回復キュア】とか【浄化魔法ピュリフィケーション】とかあった気がするけど。
たぶん魔物と戦って出来た傷だから、浄化してから治癒……なのかな?

さっき光の玉も出せたし、もしかしてボク治癒できるんじゃ。

「あ……あの、エリノーラさま」

メイドさんたちが大急ぎで汚れを拭いて、ベッドに横たえられたラルグさま。
その横で心配そうに見てたエリノーラさまに話し掛けたら、「なぁに?」って沈んだ声で振り返った。

「ボク、試してみてもいいですか?」

「試すって、何を?」

「えっと、その……ボクは魔力が余ってるし、魔力が回復したら、自然治癒力もアップするかもしれないし」

ほんとに治癒魔法が使えるか分かんなかったから、そう言ったら「ああ!」ってエリノーラさまはちょっと表情を明るくした。

「そうね。お父さまが戻るまで何もしないよりはマシだわ! 魔力を回復してあげてくれる?」

「はいっ!」

エリノーラさまと入れ替わってベッドに身を乗り出す。
よいしょって大きなベッドのうえに乗っかって、上掛けのうえに力なく伸びてた手を左手で握りながら、そっとラルグさまの唇に唇を重ねる。

意識のない口はなかなか開かなかったけど、続けてるうちにちょっと反応した。
唾液の中にも魔素はあるらしいし、歯列の間から注げば飲み込んでくれるはず。

それに、なんとなく感じる。
陽炎みたいにゆらゆらしてるボクの力が、手の甲の呪印から注がれてってる。

ボクからも呪印が発動できるみたいだ。これならいける、のかな?

あの魔法使いってどう使ってたっけ。べつに詠唱とかなかったよね?
たしか魔法の名前を言ってただけで……。


「………………浄化魔法ピュリフィケーション

合わせた唇の間で、ちっちゃく呟いてみた。
そしたら、いきなり左手が熱くなって、ピカ~~~っと光を放つ。


「えっ!?」


見てたエリノーラさまがビックリした声をあげて慌てて駆け寄る。
口を離して顔をあげてみたら、裸の上半身を斑に染めてた黒っぽいアザが、みるみるうちに消えていくのが分かった。

「ユ……ユウトちゃん、あなた、まさかっ!」

「やっぱり! 使えたっ」

じゃあって思ってすぐ「ヒーリング」って唱えてみる。
ボクの体から白っぽい陽炎みたいなのがフワ~ッと湧いて、握ってた左手から広がってラルグさまの全身を包み込んだ。

効果は一目瞭然だった。
見えてるとこの傷が全部、じわじわ~~っと薄れて消えてく。
めくってみたズボンの下で、ふくらはぎに出来てた一番おっきな傷も消えてた。

「まってユウトちゃん! あなた魔法が使えたの? い、いつから!?」

「……さ、さっき……」

「ええええっ!?」

エリノーラさまだけじゃなく、メメミルさんや他のメイドさんたちからも悲鳴みたいな声があがって、あっという間にお部屋の中はパニックになった。

大騒ぎを聞きつけた執事さんが戻ってきて。
奥のお部屋で仕事中だったクライアンさまやマルコットさまも、報せをきいて駆け付けてくる。

興奮気味に話すエリノーラさまに聞かされたお兄さんたちは、唖然となった。

「ユウト。まさかと思うが。使えるのは……光魔法だけか?」

ものすっご~~~~く険しい顔になったクライアンさまに訊ねられて、じわって冷や汗が沸いた。
マルコットさまもエリノーラさまも、真剣な顔でボクの答えを待ってる。

ボクもさっき、ヤバイんじゃって思ったばっかりだったんだ。

「……えっと…………その…………」

どうしよう。これ言っちゃってもいいのかな?
ってか言わなくても、お兄さんたちの表情からするとバレバレだよね……たぶん。

「―――ユウトは……7色…………だ」

下から聞こえた呻き声に振り向いたら、ラルグさまが薄っすら目をあけてた。

「あ、ラルグさま! 気がついた!」

「まさか本当に……目覚める、とはな」

「目覚める? ラルグお前、なにか知ってたのか!?」

「…………ええ」

だるそうに起き上がったラルグさまが、握ってた左手を引き抜いてボクをひょいって抱き寄せる。そのまま熱を測るみたいに空いた右手で額を覆った。
目を閉じて、じ~~~っと静止してたラルグさまは、小さく溜息をついた。

「やはりな」

「ラルグさま?」

「たしか、ラノベ……とか言ったか? その知識があったからだろう?」

「あ、はい! さっき、本を読んでて気がついて」

「まてラルグ! わたしたちにも分かるように説明しろっ!」

「…………簡単にいえば、ユウトは元いた世界で、この世界の魔法について物語という形で学習してたんですよ」

「はっ??」

目を白黒させたお兄さんたちにラルグさまが話したのは、さっきボクが予想したのとほぼ同じ。

つまりここは、ボクの世界で小説として書かれた世界だってこと。

ただし何らかの手違いで創造主の意図しない世界へ改悪されちゃってて、その修正のためにボクが選ばれて、神から祝福を与えられたんだろうって話だった。

え、でもそれじゃ、ボクが読んでたのは神さまが書いたお話ってことにならない?

そう言ったらラルグさまは眉間に皺を寄せた。

「物語の作者と世界を創造した者が同じではないのだろう。後者を仮に”神”だと仮定して、時空を超えて生まれたそれに盗作者かみの思想が反映した結果、いまのような世界へと変化した」

「まさか……そんなことが……」

呆然と呟いたクライアンさまは、眼鏡の真ん中に指を置いて大きく溜息をついた。

「7色だけではなく、全属性使いオムニア……か。そうと分かったからには、話がまったく変ってくるぞ……」

「ええ。前代未聞ですからね」

「じき、お父さまもお戻りになるはずよ。皆で話し合いましょう」

「……ああ」

もいちど溜息をつくように頷いたクライアンさまはボクを見た。
そしてふっと、いままでとは違う、不敵で面白そうな笑みを浮かべた。

「もうしばらくラルグを休ませてやってくれ。後ほど声を掛ける」

「あ、はい、クライアンさま!」

「それと、先に宣言しておこう。きみのことは悪いようにはしない」

「えっ?」

「むろん、いますぐどうこうという話ではないがな。マルベスカの矜持きょうじけて、きみが奴隷という立場からの脱却を図れるよう尽力するつもりだ」

横でマルコットさまとエリノーラさまも力強く頷いて。
お兄さんたちはメイドさんたちを引き連れて足早にお部屋を出ていった。