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#09 ボクには魔法が使えないの?

ボクの優しいご主人さま

ラルグさまが部屋に戻ってきたのは、空が真っ暗になってからだった。

「あ! ラルグさま、お帰りなさ~い!」

膝に置いた本から顔をあげてそう言ったら、ラルグさまはちょっとビックリしたみたいに目を見開いてから「ああ、ただいま」って返事をした。

あれ? 何かちょっと疲れてる?
今朝見たときより顔色悪いみたいに見えるけど、ダイジョブかな?

そう思ってたら長い脚でスタスタ近づいてきて、ボクが眺めてた本を覗き込んだ。

「魔術教本か。お前、分かるのかこれが」

「あ、えっと、字は読めないです。でも、絵がいっぱい描いてあるから、なんか面白そうだなぁって」

ボクが暇つぶしに見てたのは、机の横の棚に並んでた本。
茶色の表紙で、百科事典みたいに大きくて分厚くて重い。

棚に並んでた本はみんな細かい文字ばっかりで全然分かんないけど、これと同じ表紙の幾つかの本は、文字の横に挿絵とか図解みたいなのが描いてあって、なんとなく魔法の教科書なのかなぁって想像できる本だった。

とくにその時見てたページには、7色に色分けされた記号みたいな絵が付いてたから、何が説明されてるのか想像しやすかったんだよね。

「ああそうだ。属性の概念について書かれた記述だな」

隣に座って本を手にとったラルグさまは、記号を指さしながら教えてくれる。

「火、水、土、風。これが四大元素と呼ばれる属性だ。それぞれが動と静、あるいは光や闇とも結びつく二面性を持つ。そのいずれにも属さない概念となるのが無属性。これを頭で理解するのではなく事象として認識できるようになることが魔術の基本だ」

「へぇ~~~っ!」

ゲームとか小説とかでそういう説明をいっぱい読んでたボクは、リアルな魔法のお話に興味津々だった。ついワクワクしちゃう。

「魔法って、この世界の人はみんな使えるんですか?」

「誰でもというわけではないな。生まれながらの素質に左右される。その中でも火の適性を持つ者、風の適性を持つ者などそれぞれに異なる。2属性以上に適性を持つ者も多くはない」

「じゃあラルグさまは?」

そこでラルグさまはちょっとニヤッとした。

「俺は、火・水・風・光・無属性。もっとも得意とするのは無属性魔法だが」

「え、5つもっ!?」

それって、何気にすごいことなんじゃないの!?
そいえばメメミルさんが、大陸で5本指に入るくらい有能な魔法騎士だって言ってたし、ポンポンといかにも簡単そうに魔法使ってたもんなぁ!

そう思ったらなんとなく(ボクのご主人さまは凄い!)って気持ちになって、えへへってラルグさまの右袖に縋りついた。

「なんだ?」

「やっぱりラルグさまは凄いんだなぁって!」

横から見下ろしたラルグさまはクスッと苦笑した。

「まぁ、そうだな。兄上たちや姉上もそれぞれ2元素と無属性が操れるし、騎士団の中にも3属性を操る者はそこそこいるが、5属性の適性を持つ者は俺の他には2人しかいない」

「ってことはボク、一番会うべき人に会ってるってことですよね!」

「そうなるな」

ますます嬉しくなって、両手で抱き締めた腕にすりすりする。
7色っていう単に珍しい特質ってだけじゃなくて、一番必要な人の役に立つんだって思えるほうが嬉しいし、ラルグさまにとっても権利を主張しやすいはずだもんね。

「お前は猫か」

言葉どおりニャンコにするみたいに顎をくすぐった指先がひょいっと掬いあげて、苦笑したまんまラルグさまは口の端を歪めた。

「奴隷にされて喜んでいるのはお前くらいだぞ? あまりに無邪気すぎて、無いはずの罪悪感が疼くだろうが」

「ボクのご主人さまはラルグさまだからイイんです!」

「……ったく」

笑いながらチュッとボクの口に口づける。
2回、3回、唇の先で挟むみたいなキスをしてから、ゆっくり深く交わらせてく。

舌の先をキュッと吸われた時、左手の甲がチリッと熱くなって、薄目に開けてみたら普段は見えなくなってる紫色の呪印が現れてた。

いきなりストッと力が抜けるみたいな感覚がした。
これきっと、呪印から魔力を補充してる……んだよね? さっきまで怠そうにしてたラルグさまの表情が穏やかになったもの。

くたっとなった体はふわっと宙に浮いて、ソファの上に片足を乗せたラルグさまのお膝の間にすぽっと収まった。

「ん……ん……ルグさま……」

「うん?」

横抱きのまま続くキスの合間に、気になってたことを訊いてみた。

「……クは……異世界じ……は、魔法って、使えないんですか?」

唇を嬲ってた舌先がぴたっと止まる。
その姿勢のまま虚空を見つめた赤い目が、間近から覗き込んだ。

「可能性がゼロとは言わんが。難しいかもしれんな」

なんだか、ちょっと苛立つみたいな硬い口調だった。
頬っぺたを撫ぜてた手が前髪を掻き分けて、熱を測るみたいに額を覆う。

「魔法のない世界に育った異世界人には、そもそも魔法に関する素養が備わっていない。どれだけ知識を学ぼうと、感覚的に理解できねば魔法を生み出すための回路に繋がらないからな。少なくともこれまでの異世界人に魔法が使えたという事例は存在しないはずだ」

「そっかぁ……」

やっぱ、そう簡単にはいかないかぁ。
異世界転移のお話ってこう、移動するあいだに神さまから力を授けて貰う場面とかあったりするけど、ボクにはそんなの無かったしなぁ。
いまんとこステータス画面も見えないし、力が溢れてる~って感じもしないし。
7色のオーラもボクには見えないからいまいち実感わかないんだよねぇ。

「魔法を使いたいのか?」

「あ、はい」

「どうしてだ?」

「だってラルグさまの魔法を見てるとすっごく楽しそうですし。使えた方がラルグさまのお役にも立てるのかなぁって」

「―――充分、役には立ってるぞ?」

すっと下に降りた右手に狭間を撫ぜられてビクッと震えた。

「……んっ……!」

Tバックの上から狭間をぐにぐに揉んだ指先が、布を掻き分けてつぷっと穴へ潜り込む。
まだ熱を持って腫れぼったいそこが、滑りの無い硬い指の感触にキュッと窄んだ。

「んんっ……んっ……」

「お前のここは、思った以上に従順で、具合がいいからな」

「んっ……そ、れだけじゃ……なくて。なにかあったら、ま、守れる……くらい」

「守る? 俺をか?」

くくっと面白そうにラルグさまは笑う。
そりゃあボクがちょっとくらい魔法が使えたからって、大陸屈指って言われる魔法騎士のラルグさまのお役に立てることなんて無いかもしれないけどっ!

「ラ……ルグさまは強いけど……ボクも、何かできたほうが、じ、自分を守れ……んっ!」

「まぁ、興味があるというなら理論くらいは教えてやってもいいが」

「ほ、ほんとっ?」

「……ああ。お前が、そう望むならな」

ボクが望むなら?
ラルグさまはボクが魔法を使うことを、あんまり歓迎してない、のかな?

体を支えてた左腕がぐっと引き寄せて、また唇が降りてくる。
悪戯してた右手の指も2本に増やされてちょっと痛かったけど、感じちゃうトコロを探られてすぐに何がなんだか分かんない気分にさせられちゃった。

なにか誤魔化された気がしたけど、顔を離したラルグさまは「まずは文字だな」って優しい表情で言った。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇


そしてお邸に住み始めて3日目。

お部屋でボクは、ラルグさまに貰った本と魔法の本を見比べてた。

「ん~~~~……と……これはMで、A……G……I……Cで……Tでしょ? E……X、T……あ、魔術書Magic textだ。やっぱり英語にそっくりなんだ!」

魔法を学びたいならってラルグさまがくれたのは子供用の文字の教本だった。

それを眺めてて、すぐに気がついた。
字の形はぜんぜん違うんだけど、文字の並び方と文法は英語に似てる。

昨日見つけた地図も昔のヨーロッパの地図に似てたし、この世界はもしかしたらパラレルワールド? みたいな世界なのかなぁ。
文明もなんだか、魔法があるから機械文明が発展しなかった近代ヨーロッパ、みたいな感じだし。

魔術教本に書いてある文字をアルファベットに置き換えて読むのは、なんだか古代遺跡の謎解きみたいで面白い。
まったく同じじゃないから全然意味が分からない文章もあった。
でも、ボク英語の授業は好きだったし、英単語のほうを知ってるから思ってたよりはすぐに文字にも慣れた。

そうして夢中で謎解きをしてたら、コンコンって扉が鳴った。

「あらまぁ。もうそんな難しいご本が読めるの? ユウトちゃん」

入ってきたメメミルさんはボクが見比べてた本を覗き込んで、目を丸くする。
他の文字ばっかりのに比べたら、この本は絵の説明みたいな文章が多いから、そこまでややこしいってわけじゃないんだけどなぁ?

「えと、文字の形が違うけど、ボクの世界の言葉と似てるから」

「わたしは字は読めるけど、こんな専門書みたいな難しい本はさっぱり理解できないわ。えらいわねぇ」

頬に手をあてて苦笑したメメミルさんは、すぐ気を取り直してニッコリした。

「さぁ、一緒にお屋敷を探検しましょ?」

「あ、はい!」

魔法の本と教本を棚に戻してからメメミルさんを追いかけて扉を出る。
最初に一番上へのぼって、そこから1階まで降りていきながら順にお部屋を見て回った。

3階は使用人とかメイドさんの部屋で、リネン室とか倉庫みたいな部屋もある。

2階が主に侯爵家のひとたちの暮らしてる場所。
ほかにも勉強室とか、音楽室とか、図書室とかもあったけど、1/3くらいはシーツが掛かってて使われてないお部屋だった。

そして1階は食堂とか、調理場とか、大広間とか、サロンとか、お風呂とか、洗濯場とか、いろんな生活の機能がある場所。

ボクが見せて貰えたのは入っても良いよってお部屋だけだったけど、それでも覗くだけでほんとに探検してるみたいにひっろいお屋敷だった。

「い~い? 今日行かなかった場所は勝手に入っちゃダメよ? 侯爵さまに叱られてしまうから」

「はい」

「朝は、ラルグリートさまがお出かけになったら、このお部屋へいらっしゃい。わたしたちと一緒にご飯を食べて、それからお手伝いね。ユウトちゃんは使用人ではないから決まったお仕事はないけど、その時々で出来そうなことをお手伝いしてくれればいいわ」

「分っかりました!」

それから侯爵家のひとたちへの接し方とか、やっちゃいけないこととか聞いて。
午後はメイドさんたちのお手伝い。

乾いた洗濯物を畳んだり、花瓶のお水を注いで回ったり、お皿やグラスを拭いたり、戸棚のお片付けをしたり、これ二階に持ってってね~ってお使い頼まれたり。

お手伝いしてる間なんかやたらと構われた。
メイドさんとか、通りすがりの兵士さんとか、厨房のおじさんとか。
あとでお部屋で食べなさいねってお菓子くれるし。

なんでだろって思ってたら、ボクはチビだから、この世界のひとからは小学校高学年か中学生くらいに見えてるみたいで、メメミルさんも含めたみんなから(まだこんなに幼いのに)っていう同情をされてたみたい。

ボクもうじき18歳なんだけどなぁ(笑)。

よしよしされるの好きだから、まぁいっか。


◇◇◇◇◇


パタパタ走り回ってるうちに二階にいた使用人さんにお届けものを頼まれて、一階へ向かおうとしてたら、茶色の髪がゆらゆら近づいてくるのが見えた。

「あ、マルコットさま。おかえりなさいませ!」

「うん? おやぁ、ユウト。お使いかな?」

「はい! 執事さんに届けてくださいって」

「そっか」

次男のマルコットさまは、ラルグさまより2こ上の24歳。
胸のあたりまで茶色の巻き毛が下がってて、顔は奥さま似。2つ上のお姉さんともちょっと似たふんわり系だけど、目元だけキリッとしてて男らしい。

「……ふぅ~ん…………」

口元に指を当てたマルコットさまは、上から下までじ~っとボクを見た。
ボクが着てたのは、パレオのうえに薄いカーディガンを羽織ったみたいな恰好だから、あんまりジロジロみられると恥ずかしいんだけど。

そう思ってたら、伸びた手がヒラヒラの下から潜り込んで、ボクのお尻をむにっとつかむ。

「ひゃんっ!」

くすぐったくて紙の束を落っことしそうになって、あわてて抱え直した。

「や……やん、あっ」

「男の子のわりに柔らかいんだねぇ。こんな格好してると、そそられるなぁ」

「ら……ラルグさま、が……んん! こ、これを着なさいって……」

「あいつの趣味かぁ。そういえば最初の夜もこんな服を着せてたねぇ」

スッと離れた手が胸のほうへとあがって、上着に隠れた乳首の周りをフニフニつかむ。

「気のせいかな。ここもちょっと膨らんでるね」

「は、はい」

そうなんだよねぇ。
成長期に男性ホルモンが足りなかったせいか、体が女の子っぽく丸みを帯びてて、乳首の周りもちっさいおっぱいみたいに盛り上がってる。
前にラルグさまにした話をしたら、マルコットさまは「なるほどね」と頷いた。

「ま、ラルグリートを怒らせるとあとが怖いから無理強いはしないけれど。そのうち気が向いたらわたしとも遊んでおくれよね」

「え……あ……は、はい……」

勝手に答えていいのか分からなかったけど、貴族のひとにイヤですって言えないから、とりあえずボクは小さく頷いた。
まぁ、どっちにしてもボク、従えって命令されたら抵抗できないと思うんだけど。

しばらくフニフニしたマルコットさまは、ニッコリしてから「じゃあね」って手をふって自分のお部屋へ入っていった。