「……っ」
とたんに澄生はゾクゾクという風情で身を震わせる。
その反応に裕司の胸にも、身震いするほど熱く強い支配欲が込みあげていた。
「その前に、中を綺麗にして……ついでに診察もしておこうか。ね?」
「は、はい」
「いい子だ。じゃあ《脱いで》」
「うう……は……ひ」
ダイニングテーブルの横に立ったまま、澄生はシャツのボタンに手をかける。
相変わらずラフな一枚シャツの下はすぐ滑らかな肌だ。襟をはだける指先、袖から腕を抜く仕草。すべてが躍動的でなんとも様になっていた。
長年プレイをしていれば脱衣姿なども幾十人と見ている。なのに、やはり澄生に対してだけ艶めかしさを感じてしまう。
その理由はもう裕司にも解っていた。これは恋情だ。澄生が自分に恋心を寄せていると感じた時には、すでに惹かれはじめていたのだろう。
カウンターに凭れかかったまま眺めていた裕司を、ふちを赤くした瞳が見上げる。
笑みの形に目を細めてみせると、澄生は「はぁ」と熱い息をついて、両手の指をかけていた下着を引き下ろした。
パサリと落ちた布から足を抜き、衣服と共に軽くまとめてダイニングテーブルの上に置く。そこまでしてから腹の前で両手を握り、おずおずと裕司を見あげた。
「ふふ。もう元気になってるんだ?」
「うう……」
「恥ずかしい? でも、それじゃ診察できないな。ソファに座って《晒して》。わたしに、よ~~~く見えるようにしてごらん」
「は……はぃ……」
興奮に全身を赤くしたままソファに背を預けた澄生は、俯いてふるふると震えながら両足を体の脇へと持ち上げる。すっかり勃ちあがった陰茎も眼前に晒された。
だが、コマンドが効いてはいても羞恥心のほうが勝るのだろう。真っ赤な顔を顰め、膝を寄せたまま動けずにいる。
裕司はカウンターに凭れかかったまま腕組みをし、意地悪な笑みを浮かべた。
「ダメ。それじゃ、ちゃんと見えないだろう? 《大股に開いて》」
「ふえ……えっ……えっ!?」
初めて耳にするコマンドなのだろう。
命令の意味が分からず慌てる澄生の意志に反して、両足は勝手に大きく開き、膝に両手を乗せたM字開脚の状態で固定される。
澄生はいっとき羞恥も忘れて、呆然と開かれた自分の手足を見つめた。
「な……なんで……体が勝手に動くんだよっ……?」
「だから最初に言っただろう? 君はわたしの操り人形だと」
「コマンドの意味、わ、分かんないのに……」
「命令が聞けているということは、一覧表なりで一度は目にしているはずだよ。DomもSubも、日本人のほとんどは自分に関係がないものとして見過ごしてしまうけどね」
言いながら裕司は段ボールを物色し、幾つかの小さなパッケージを取り出す。
それを手にしたまま開かれた股の間へと腰を下ろすと、澄生は思い出した羞恥に再びカァッと赤面した。照明に照らされたそこは、消え入りたいほどの本人の羞恥心とは裏腹に、しっかりと自己主張して煽情的な姿を晒していた。
麻酔効果のあるゼリーを指に取り、それを肛門に塗り付ける。
恥ずかしさで息を詰めた澄生に「口で息をして」と囁いて、まずは医者の目で観察を始めた。
肛門上皮から会陰にかけての色艶は正常。
陰茎・睾丸の爛れや静脈曹の腫れもなく、膿瘍を疑う病変もない。
そこまで見取ってから、麻酔が効いたタイミングで二本指を指し込んだ。
「んんっ!」
「力を抜いて」
歯状線を越え、直腸まで指し入れた指をぐるりと回す。
違和感と緊張からか内側のひだはギュッと指を締め付けてくるが、とくに痛みは無いようだ。全体的に触診で病変がないことを確認する。
「うん。どこにも痔核らしい触感はないし、滑らかな粘膜だね」
「あうう……なんか、無茶苦茶、はずいんだけどっ」
「まだ消化器外科でするような診察行為しかしてないよ?」
「だ、だってっ、全裸で診察しないじゃん!」
「ふふっ」
普通の肛門診ならそもそも股など開かせない。触診するのもほんの4~5秒程度だろう。
ニヤつきそうになるのを堪えながら差し込んだままの指を蠢かす。
「あ……あ……っ」
さらにぐっと指を進めて、会陰側にある柔らかな膨らみをなぞると、途端にビクッと大きく体が跳ねあがった。
「ひあっ! あっ!!」
「うん。前立腺の肥大もなし」
「ゆ……裕司さんっ……やっ……やめっ!」
「だから診察だってば。《じっとして》」
診察と言いつつ、膨らみを左右になぞるように二本指を動かす。
優しく撫ぜているだけなので堪えられないほどではないはずだが、普段触られない場所への刺激に、澄生はぶるぶると震え続けていた。
指を引き抜き、続けて医療用の浣腸液が入ったチューブを差し込む。
薬液の刺激が気持ち悪いのだろう。澄生はすぐに顔を歪めながら首を縮めた。
「う~~~~~~~~……」
「このまま、しばらく我慢だ」
装着していた手袋ごと浣腸液のチューブを丸めてゴミ箱へ放り込んだ裕司は、萎えかけていた陰茎を片手に包んで刺激し始める。
腹痛と快感を同時に与えられている澄生は《動くな》の命令で身動きが取れず、息も絶え絶えといった様子で喘ぎ続けていた。
「あ……う……うぅ……く、るし……」
「このまま1回イけたら、出させてあげるよ」
「む、無理だよっ……こんなじゃ……勃たな……いし」
「お腹じゃなくて、ココにだけ意識を集中してごらん。ほら、頑張って」
「やっ! あ、ひっ!」
ガクガクと震えながら必死で命令に従おうとするものの。
慣れない薬液に体のほうが悲鳴をあげている。
ソファで粗相をしてしまいそうだという怯えと、腹の痛みと前への刺激。綯い交ぜとなった苦しさに、羞恥どころではなく縋るように裕司を見つめてくる。
一方で、苦しがる姿を眺める裕司の口元には、常にない愉悦が浮かんでいた。
「ゆ……う……も、もぅ……許し……う~~~っ」
「いいよ。頑張ったから、今日はこのくらいで許してあげる」
スルリと撫ぜおろした指先で窄まりをトントンと突き、優しい声で囁いた。
「《肛門を締めて》」
「う……んんっ! ふっ!?」
「《射精して》」
「え、うそっ。ひっ! あ・あ・あっ!」
仰天する澄生の視線の先で、半勃ちだった陰茎の先からピュクッと精液が飛び出す。
まさかこの状態で射精できるとは思わなかったのだろう。澄生は自分の身に起きた出来事に呆然としていた。
「ちゃんとわたしの言うことがきけてるね。《いい子だ》」
「……ゆ、裕司さ……い、いまのって……」
「話は後。これ以上は体を壊してしまうからね」
裕司は伸ばした手で澄生の両足を閉じさせ、膝裏に腕を回して抱き上げる。
別にことさら辱めるつもりはない。さっさと便座に座らせ「終わったら風呂へおいで」と頭を撫ぜてバスルームへ向かい、湯を溜め始めた。
澄生が出てきたのは5分ほどが経った頃だ。
その頃には幾つかの小道具をベッドサイドへと運び、裕司自身も裸の体を晒していた。
「ふぁ……」
そろっとバスルームを覗き込んだ澄生は、浴槽の縁に腰かけて待っていた裕司の姿を見て、驚きとも歓喜ともとれる呟きを発した。
「あ、あんた……医者なんて不摂生な仕事のくせに、イイ体してるよなぁ」
しみじみと眺められる裕司の体は、決してマッチョというわけではない。
ただ年相応に張りのある肌と引き締まった身体つきをしていて、肥満や怠惰とはまるで無縁の逞しさだった。
「体力勝負の仕事だからね。休日にジムに行く程度の運動はしてるさ」
「背ぇ高いし、締まった体だし……ナニまですげぇし。どこまで嫌みなんだよ……」
「ははっ。ありがとう」
ちぇっと拗ねた呟きはしつつも、澄生は怒った顔はしていない。
むしろ嬉しそうに上気したままだ。
つい、可愛い……とほくそ笑みつつ「《おいで》」と呼び寄せて洗浄作業を開始した。
なにかと構いたがるDomの性質を承知している澄生は、照れて時おり唸りつつも、抵抗する様子はなくされるがままだった。もともと構われること自体が好きなのだろう。
この2週間ほどの日常生活にも、世話をしたい裕司と、その分を返そうとする澄生との間でなんとなく暗黙の了解ができつつある。
どこまでも相性のいいパートナーだ。

