ラルグさまの性奴隷、から、婚約者になった。
ら。
その翌日から、ボクの環境はいきなり全部ひっくり返っちゃった!
ほんと変わり過ぎてビックリしたよっ!?
まずね、午前中のうちにお役所のお偉いさんみたいなひとが訪ねてきて、持ってきてくれた書類に頑張ってこの世界の文字で名前を書いた。
そしたらそれがお役所に届けられて「フルノーム領の領民」って身分が確定。
ボクは書類上ちゃんとこの世界のひとになった。
で、ラルグさまの部屋の隣にボク専用のお部屋を貰ったの。
使ってなかった小部屋を綺麗にして、ベッドにシーツ掛けただけだけど。
たぶんこのベッドお昼寝とか風邪引いた時にしか使わないよねっ。
でも貴族の邸だから、ちっちゃくても部屋中すんごい高級品だらけ。何だかホテルのスイートルームに居るみたいで、しょ~じき言って落ち着かない。
あ、でね。
ボクはとりあえず、廃村で身寄りなくさまよってたのをラルグさまが見つけて、侯爵家が保護した孤児ってことになったんだよ。
間違ってないし!
お披露目しても大丈夫になるまでは、異世界人ってのは伏せておくんだって。
「こういう物事は、外堀から埋めるものだ」
銀縁眼鏡をクイッとしながら言ったクライアンさまは、さらにボクを発明家にしようって言いだした。
ボクがステイシーさまの遊び道具として提案したオセロ。
あれは間違いなく貴族に売れるからって、特許申請しようって話になったんだって! 超ビックリじゃない!?
他にも、この世界には無くって貴族に流行りそうな商品をボクの名前で申請して、その収益の何割かが侯爵家へも入るようにする。そうすれば侯爵家にも利益があるし、ボクもお金が稼げるよ……ってことだった。
さっすが、手広く事業してるお金持ちは考えること違うよねぇ~~~。
ボクあれがお金になるなんてちっとも思わなかったもん!
ほんとはボクが考えたことじゃないから、ちょっと後ろめたいんだけど。
そう言ったらクライアンさまは「商売とはそういうものだ」って不敵に笑った。
「考えてもみろ。知能が高く、発想ひとつで財が築ける者を、誰が奴隷だなどと考える? そのうえ侯爵家にも富を齎すとなれば、当家がきみを擁護するに十分な理由となる。商品を細部まで記憶できていること自体が才能だ。堂々としていればいい」
「は……はぁ……」
こういうの聞いてると……ほんっと……つくづく思う。
ボクにとってラッキーだったのは、その発想や発明を奪おうって考えるんじゃなく、「手伝うから一緒にやろうよ」って言ってくれる善良なひとたちに保護されたことだよねぇ。
ってなわけで。
収入のあてができちゃったボクは仕事の仕方をお兄さんたちに。
侯爵家の一員ですって名乗っても恥ずかしくないような知識とか、礼儀作法をエリノーラさまに。
魔法とかその他のいろいろをラルグさまに教えてもらうことになった。
もちろん洋服とかも、貴族の男の子が着る服を用意して貰ったし。
食堂にもボクの席がちゃんとあった。
高校の選択科目でテーブルマナー取ってて良かったよ~~。
ちょっとだけこの世界のマナーとは違ったけど、ニコニコしたエリノーラさまに教えてもらったから、すぐ覚えられたし。
だけど、どうしてもダメだったのが、名前の呼ばれ方だった。
ボクずっとみんなから「ユウトちゃん」って呼ばれてたんだけど。
使用人やメイドさんたちからは「さま」って呼ばれちゃう立場になるんだよね。
だけどいきなりはムリ! 恥ずかしくて死んじゃうっ!
って訴えたら…………真ん中に「坊」がつくようになった(笑)。
◇◇◇◇◇◇
「ユウト坊ちゃん。ラルグリートさまが王都よりお戻りになりました。旦那さまがリビングでお話があるそうです」
「あ、は、はいっ!」
ううう……な、慣れないよぉ……っ!
クラレットさんは執事の鑑って感じで、もともとボクにも丁寧な口調で喋ってたけど。いままでは「ユウトさん」って呼んでたんだよね。
いきなりの坊ちゃん呼びは、心臓に悪いっ!
何日かしたら慣れるのかなぁ?
こういうのが当たり前のラルグさまたちは、ほんっと凄いなって庶民のボクは思うっ!
むず痒くって、そわそわ赤くなりながらリビングに行ったら。
ラルグさまと侯爵さまが、すごく真剣な顔でお話してた。
「おお、来たか」
正面にいた侯爵さまの声に、斜め前にいたラルグさまが振り返った。
ら、なぜか一瞬、目を見開いて固まった。
あれ? ボクなんか可笑しいのかな?
ボクが着てたのは、襟元をリボン状に結んでる白いブラウスと膝丈くらいの紺のズボン。その下に白い靴下と黒っぽい靴っていう、漫画やアニメで見た、いかにも貴族のお坊ちゃんっぽい洋服だった。
なんか子供っぽい気がして恥ずかしいんだけど。
ラルグさまやお兄さんたちが着るみたいなジャケットは、ボクじゃ全然似合わないから、こういう男の子っぽい格好になっちゃうんだろうなぁ。
すぐにフッと笑ったラルグさまは、ちょいちょいって隣へ呼び寄せた。
ぽふって頭に乗った手が、くしゃくしゃ髪を撫ぜる。
「ラルグさま?」
「よく似合ってる。改めて惚れ直しそうだ」
真顔で言われて、思わずボンッ!って赤くなった。
そ、そいうの、絶世の美青年な顔で言わないでくれないかなっ。
いまのラルグさまは黒い騎士服を着てるから、余計にいろいろと……そのっ。
クスッと笑った侯爵さまが「それで」とまた深刻そうにラルグさまを見た。
「結局、陛下のお許しは得られたのか?」
「ええ。条件付きではありますけどね」
「条件?」
侯爵さまに頷いたラルグさまは、ボクをみた。
ちょっと前に見たことがある。
心配そうっていうか、何かを悩んでるみたいな辛そうな表情。
「すまん」
いきなり謝られてきょとんってなった。
「お前に伽をさせろとのことだ。一夜限りだが」
「え……っ」
ぼ、ボクが、王さまにご奉仕するの?
そりゃそういうのを想定していろいろ教えられてたんだけど、昨日からボクはラルグさまの婚約者ってことになってるし、なんで王さまがボクを?
ふ~~~~~~って、侯爵さまは大きく溜息をついた。
「なるほどな……さすがに陛下も抜け目がない。我らの忠義を見定めようということか」
「ええ」
「無条件に認めれば、万が一我らが裏切ったときに取り返しがつかなくなるからな。ユウト自身が王へ阿ったとなればその心配は無くなる」
あ……そういうことか!
王さま側からすると、侯爵さまたちがボクを利用してそのまま王家を乗っ取っちゃうみたいな心配をしなきゃいけないんだもんね。
ボクがちゃんと王さまに服従するか、それを証明しなさいってことかぁ。
思わず、ギュッと両手を握った。
ホントは怖い。
ラルグさま以外の誰かに抱かれることもそうだし。
もしボクが王さまの機嫌を損ねることをしちゃって、侯爵さまたちに迷惑を掛けたらって思うと、すごく怖い。
でも。それをしなきゃ前へ進めないってことなら……ボクは。
ちょっとだけ眉間に皺を寄せてるラルグさまの赤い目を、じっと見つめた。
「はい。ラルグさま」
頷いたボクをみて、ラルグさまはさらにギュッと眉を寄せた。
黒い袖に包まれた片腕が抱き寄せて、頭のてっぺんに頬を押し付ける。
侯爵さまが見てる前だからちょっと恥ずかしかったけど、ラルグさまの気持ちはボクも分かるから、されるままでいた。
「ラルグリート」
リビングの入口からクライアンさまの声がした。
見たら後ろにマルコットさまもいて「どうだった?」って短く訊ねる。
それに侯爵さまが溜息まじりに応じた。
「一夜の伽を条件に、婚約を認める……だそうだ」
向かいに腰を下ろしたお兄さんたちはギュッと顔を顰めた。
「まぁ……止むを得ない、ですね。こればっかりは」
「ああ。―――ところでラルグ、王都の様子はどうだった? 叔父上たちがすでに根回しを始めているようだが」
「いまのところは何も。わざわざ印象に残る登城の仕方をしましたから、幾人かに探りは入れられましたが。まだ7色の出現が公になってませんからね。ただ」
「ただ?」
「転移の途中で、かなりの瘴気を感じました」
抱き寄せてた手をゆるめたラルグさまは、ボクの腰に腕を回したまま、侯爵さまのほうへと向き直った。
「この頃、やけに魔物の数が多すぎる。昨日の魔物騒動でも極端に狂暴化した奴らが目立ちましたし。…………まるで、大戦の予兆ですよ」
「バカなっ! 先の大戦からまだ2年しか経っておらんぞ!? このような短い間隔で大戦が起こるなど、いままでに無かったことだ!」
「俺もそう思いたいのですけどね。こう立て続けに瘴気を感じると、どうにも気のせいだとは思えない」
「父上。むしろ、そうであると仮定して事にあたるべきでしょう。ラルグの言うとおり、確かにこのところの魔物の数の多さは異常ですし」
「何ということだ……」
唸るように呟いた侯爵さまは、何かに気付いたみたいにボクをみた。
銀色の口髭を乗せた口元が両端にしわを刻む。
「あるいは、それゆえにユウトの力が発現したのかもしれんな」
「え、ボクですか?」
「ああ。このタイミングで全属性使いが現れたということは、何らかの啓示なのだろう。むろんお前自身を戦わせるような事態は避けねばならんが、万が一再び戦が起こるようであれば、ラルグリートの傍らにお前がいるのは心強いことだ」
「あ、はい! ボクがお役に立てることだったら、何でも!」
昨日みたいなことがあった時、ボクがラルグさまを治癒できる。
ボク自身が闇魔法も使えるようになったから、キスしなくても【魔力譲渡】って魔法で魔力を回復できるようになったみたいだし。
ほんとに魔物との戦いが起きるとしたら怖いけど。
昨日までと違って、ボクでもラルグさまを守れるって思えるからすごく嬉しい。
まだ不安だけど、ホント、魔法が使えるようになって良かった!

