翌日。
領主さまのお屋敷に辿り着いたのは、夕焼けが綺麗な夕方のことだった。
まず、その建物のでっかさにびっくりした。
例えるならヴェルサイユ宮殿か、バッキンガム宮殿かなって感じ!?
3階建てで横にずら~~~~~っと窓が続いてて、彫刻とかしてあって、お庭にも噴水とか温室とかあって。お屋敷っていうより、お城だよもうこれ。
馬から降ろされたボクの顔のそばで、パチンと指の音。
ぎゅ~~っと鎖が短くなって両手首を首の前で固定される。そのまま首の後ろを押されながら邸の中へと連れていかれた。
玄関を入ると奥の右側に黒い服の男の人がいて、左右にメイドさんがいっぱい。
みんないっせいに「おかえりなさいませ」って言ってくる中を、ラルグさまは目を向けることもなくスタスタ歩いてく。
ボクはテレビでしか見たことない光景にびっくりし過ぎちゃって、自分の立場も忘れてきょろきょろと周りを見ちゃってた。
たぶん執事さんだと思う黒服の人がボクをみて「おや」と首をかしげる。
「ラルグリートさま。そちらの方は」
「転移者だ。託宣どおりの場所に流れてきてた。見ろクラレット、7色だ」
すると執事さんは、細めるようにしてジッと見てからパッと目を丸くした。
「……おおっ! 本当だ! これは珍しいっ!」
「加えてこの容姿だからな。放っておけばろくな目にあわん。だからさっさと俺の奴隷にした。父上にもそう伝えといてくれ」
「かしこまりました」
頭を下げた執事さんに小さく頷いてラルグさまは階段を上がってく。
ラルグさまの歩みに必死でついていくと、2階の右側の廊下をちょっと進んだところにある部屋に辿り着いた。
中に入ってまた目がまん丸くなった。
うわ、ひっろ!!
日本風に表現するなら20畳くらいかな!?って広さの部屋に、ソファやらなんやらが置かれてて、一番奥に超でっかい天蓋のベッドがある。
パタンと扉が閉まったところで、パチンとラルグさまの指が鳴った。
鎖がお尻の位置くらいまで伸びてやっと手が楽になった。
「屋敷にいる間は長いままにしといてやる。部屋の備品やベッドも好きに使って構わない」
「はい」
「それと」
スタスタとベッドの左横のクローゼットへ向かったラルグさまは、扉の前に立つと指先で宙にぐるっと円を描いた。そこに白っぽい曇りガラスみたいなものが現れる。
にゅっと手を突っ込んでラルグさまが取り出したのは、蓋のついた大きな籐籠とクリーニングから戻ってきたみたいに綺麗に畳まれたボクの学生服だった。
「あ。それっ」
「この籠だけはお前の場所として許す。自分の大事なものはこれに仕舞っておけ」
「あ、ありがとうございますっ!」
籠の中に畳まれた学生服が仕舞われてクローゼットの中の一番下に置かれた。
それを見てボクは思った。
やっぱりこの人は、すごく優しい人なんだ。
7色の持ち主として狙われてしまうボクを守るために、奴隷契約っていう名目でお傍にいる理由を作ってくれた。そしてボクの気持ちをちゃんと大事にしてくれる。
ぎゅっと胸が痛い。こんなの好きになっちゃうよ……もう。
ソファに座ったラルグさまに「ユウト」って呼ばれて。
腕の中で唇を貪られながら、ボクはほんとに心の底から(この人がご主人さまになってくれて良かった)って思った。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
メイドさんが呼びにきて、連れていかれた食堂もすっごい部屋だった。
金と白と水色で構成されたシャンデリアの下に、真っ白いクロスが掛かった大きなテーブル。周りを囲んでるのは重厚そうな青い鳥が刺繍された背もたれのある黒い椅子。全体的に薄い水色で構成された室内には彫刻とか、絵とか、花とかいっぱい飾られてて、すっごく豪華だけど何だか上品な感じがする。
テーブルを囲んでたのは、ラルグさま含めて5人の男の人と、4人の女の人と、ボクより年下かなぁと思う女の子がひとり。
全員、どっかの映画俳優?みたいに綺麗な人たちだった。
貴族のタシナミとして、みんな正装してる。
男の人はサラリーマンのスーツの後ろが長くなったみたいな形の服で、女の人は足元まである長いドレス。女の子はふんわりドレスだったけど。
ちなみにボクも連れて来られるまえに着替えさせられた。
胸の上の方と二の腕を覆う肩掛けみたいな布と、腰から太ももを覆うパレオみたいなヒラヒラの布。パンツの代わりに大事なトコだけ包む袋のついたTバックみたいなのを穿かされてる。
もちろん首輪と手枷の鎖もそのまんまで。乳首もお腹もお尻も触り放題なこのヒラヒラな格好がボクの正装ってことみたい。
「ほう? それがお前の見つけてきたという、7色の異世界人か」
ラルグさまの座った椅子の横。
床に置かれたビーズクッションみたいな布袋のうえに女の子座りさせられたボクを見て、領主さまらしい口髭を生やした男の人が言った。
偉い貴族さまだし、見てたら怒られちゃうかなぁと思ってボクはずっと俯いてたんだけど、「ええ」と頷いたラルグさまに顎をつかんで上向かされる。
それで視界に入ったご家族がジッと目を凝らすような仕草をしてた。
さっきの執事さんと同じ視線だった。どうもオーラは普通の状態では見えなくて、魔法を使う人たちが意識すると視えるものらしい。
「ああ。確かに」
「おや、ほんとだ。最後に7色が確認されたのは千年以上も前という話じゃありませんでしたっけ? それが再びこんな可愛い子の姿で現れるなんてね」
「ラルグは何でもホイホイ拾ってくるが、これまでで最も上等な拾い物じゃないか?」
「そうですね。魔法一家のマルベスカにとっても、この上なく好都合な」
ラルグさまに顔立ちの似た銀髪に眼鏡のお兄さんと、すこしウェーブのかかった茶色の長い髪のお兄さんが感嘆したみたいな声で話す。
それをきいて、あれ? と思った。
なんか思ってた反応と違うんだけど。ラノベ的な怖い展開は無し?
領主さまや奥さまはニコニコしながらラルグさまと話してて、女の人たちはハートマークな目でボクを見てる。あれれ?
「ねぇぼうや。名前はなんていうの?」
訊ねたのはラルグさまのお姉さんらしい華やかな女性だった。
「あ……ユ……ユウト……です」
「そうユウトちゃんね。お人形みたいで可愛いわぁ。ねねラルグリート。こんどわたくしにもこの子を貸してくれない? 着せてみたいお洋服がいっぱいあるのよぉ」
「ダメです」
「ああん、も~~。ケチい」
ふわふわな茶色の巻き毛をしたお姉さんは、体をくねくねして口を尖らせる。
すると奥さまも「独り占めはずるいわよ」と乗っかって、結局ラルグさまがお留守の時は、奥さまやお姉さんたちの着せ替え人形になるのはOKになったらしい。
それをクスクスと笑いながら見ていた領主さまやお兄さんたちも「わたしにも貸せ」と言ったけど、それにはラルグさまは断固拒否ってキッパリ言い切った。
「ユウトは俺のものですから。俺の許可なく手出しをしたら、たとえ父上であろうが絶対に許しませんよ。呪印の法は重々ご承知でしょう?」
「分かった、分かった。お前を怒らせるようなことはせんよ」
ひらひらっと片手を振って領主さまは苦笑する。
ボクは、時々ラルグさまが口に突っ込むものをもぐもぐしながら、完全にペット扱いだよなぁって思ってた。
奴隷っていうより……うん、飼われてる犬とか猫。
不思議とそう扱われててもボクの中に抵抗感がなかった。
これは後で気づいたことだけど。
たぶんこの時のボクは、変わりすぎた環境に圧倒されていたのだと思う。
いきなり迷い込んだ異世界。
空を飛び、奴隷契約の魔法を使ったラルグさまを見て、ここが明らかにボクの知ってたのとは違う世界であることは実感した。
そんな中であからさまに別世界って感じのお屋敷に連れてこられて、床に座ったまま大勢のお貴族さまたちに囲まれてたら……ねぇ??
ラノベの主人公ならともかく、何の戦闘能力も持たないボクなんて、それこそ指パッチンで殺されて終わりなんだもの。
こういう時に一番やっちゃいけないのは、ご家族の誰かの反感を買って毛嫌いされることだ。
奴隷でもペットでも、なんでもいいよ。ともかく従順に。
ここを追い出されさえしなければ、少なくとも命とご飯の保障はされるんだから。
あとはいかにラルグさまに気に入られて、この世界で生きていく方法を見つけるかなんだけど………………。

