ボクをかかえたままラルグさまは、迷いのない足取りでずんずん歩いてく。
坂道をおりて右側の道へ進む。
さっきいた教会みたいな建物は郊外の丘って感じの場所にあって、周りは草原。ときどきポツンと木や柵みたいなのがあるけど、ほかはなんにもない風景が続く。
どうでもいいけど、ボク重くないのかな?
当たり前みたいに抱き上げられちゃったからそのまま来ちゃったけど、ふつう幼稚園くらいの子でも、ずっと抱っこしてたら疲れちゃうよねぇ?
「あのぉ、ラルグさま」
「うん?」
「ボ、ボク重くないですか? もう立てそうだし、自分で歩き……」
「いや。このままでいい」
「け、けど」
「お前の歩幅じゃ俺に追いつけないだろうからな。それにお前、ずいぶん軽いぞ?」
「え、そ、そうですか?」
「痩せすぎってわけじゃないな。じゅうぶん肉付きはあるが。お前歳は幾つだ?」
「じゅ、17歳です」
「だとすると、男としてはそうとうに華奢な部類だな」
そういって立ち止まったラルグさまは、ボクの腕や肩や脇腹をむにむに掴む。
くすぐったくて思わず「ひゃっ」と声がでた。
それにニヤッとしたラルグさまは、ボクを抱えてた左腕をすこしだけ外側へと開いて、そのまま開いた右手でむんずと股間を掴んだ。
「わぁっ!」
学生服のズボンの上からぐにぐにと弄られて腰が引けた。
自分で触るのとは違う妙な感覚で、生々しくて、真っ赤になってしまう。
「や、やだ。ああ!」
「これがあるからには男なんだろうが。身体つきは女のようだ。どこもかしこも柔らかい」
「んんんっ」
「成長期前の子供の柔らかさという感じだな」
「そ、れは…………ん! びょ、びょうきの……せい、かも」
「病気?」
ボクは高校生になってもチビなままで、ヒゲも陰毛も生えてこなかった。
もとから女の子みたいと言われてたからボク自身は気にして無かったんだけど、心配した養父母に病院につれていかれた時に、第二次性徴が遅れる遺伝子的な異常があるってことが分かった。定期的に男性ホルモンを投与すれば人並みに成長できるっていわれたけど、注射が怖かったから、じゃあこのままでもいいやってなって現在にいたるってわけ。
かろうじてアレも大人の形状にはなったし、皮もむけたし、身長も156センチまで伸びた。けど声は高めなまんまで、自分でいうのもなんだけど男らしさは欠片もない。
ずっとぐにぐにしてた手を離したラルグさまは「つまりはカストラート1のようなものか」と呟いてから、また何事もなかったように歩き出す。
中途半端に放り出されたボクは、内心どぎまぎしてた。
どうしよう。マジにやばい。
ボクはゲイじゃなかったはずなんだけど。普通に女の子可愛いと思うし。でも、鼓動がはやくて、触られた部分が熱くて。震えるみたいな気持ちが生まれてた。
まさかボク、出会ったばっかのこの人に……一目惚れとかしちゃってる???
た、たしかに綺麗だし、ぶっちゃけすごく好みの顔だけど!!
ここ、異世界らしいし、いきなり性処理の相手とか言われちゃって、どうなるかも分かってないのに。ボクもっと慌てるべきじゃないのかなっ!?
とか必死に思おうとしたけど、いちど意識しちゃったらダメだった。
もしかしてボク……この人に会うために異世界転移して来たんじゃ…………なんて恥ずかしいことまで考えちゃって、うぎゃ~~~! ってなってたら。
どこからかブルルルって音と、低い男の声で「坊ちゃん!」と呼ぶのが聞こえた。
振り向くと、いつのまにかさっきの廃村みたいな場所に辿り着いてて、声のしたほうに2頭の馬と手綱を両手に持った男の人が立ってた。
背が高くて、ガッチリムキムキな体格で、四角い顔で、黒い髪。
仮にラルグさまを騎士に例えるなら、その人はデッカイ斧が似合う戦士みたいだった。
「どこほっつき歩いてたんですか坊ちゃん! 急に居なくなるから探したんすよ」
「ああ、すまんアーネスト。こいつを拾いに行ってたんだ」
「こいつ?」
のしのし歩み寄ってきた男の人は、腕に乗せられたボクを見て目を丸くする。
ボクの顔と服を見比べてから「異世界人ですか?」と訊ねた。
あれ? 異世界人って言葉が出てくるってことは、この世界には、ボクみたいな人が他にもいたりするのかな。
「託宣があった転移者がこの子ですか。まった、えらく可愛い子が渡ってきたもんすね~。歳は12、13くらいかな? こんなに幼い子が渡ってくることは今まで無かったと思いますが」
「これでも17歳らしいぞ」
「は、17!? 全然そうは見えませんよ!?」
う……ちょっとグサッときた。そりゃ、年相応には見えないだろうけどさ。
そしていろいろ引っ掛かった。
託宣ってあれだよね。神殿とか夢の中で聞こえる、神さまのお告げ的な。
ってことは、ラルグさまが現れたのは偶然じゃなくて、もともとボクを探しに来てたってこと?
頭の中で考えてたら、アーネストさんは「ん?」と目を細めるような仕草をした。
「おやま。こりゃまた珍しい。7色すかっ!」
7色? って、なんだろう?? 虹の色?
こてっと首を傾げたら、ラルグさまが、馬の背にボクをのっけながら答えた。
「7色というのは、属性のことだ」
「属性? ああ~~~~えっと、もしかして魔法を使うときの力の種類みたいなのですか?」
「そうだ。光・闇・火・水・土・風、そして無属性。それぞれ象徴となる色が違う。いまは魔素が枯渇してるからな。たまに異世界人が渡ってくる」
それからラルグさまが話してくれたのはこんな話。
この世界では魔法が使われてるけど存在する魔素には限りがあって、大きな戦いがあった直後などは使われすぎて枯渇ぎみになる。
で、どうやら浸透圧みたいな事情で、魔法を使ってなくて魔素が余ってる世界から、枯渇してるこの世界に魔素が流れてきて、それに巻き込まれた人が渡ってきちゃうことがあるらしい。
魔力がいっぱい詰まった異世界人は、この世界の人にとっては供給源。
ようするにスマホの充電器みたいな存在で、貰えば気力や魔力を回復できるし、戦場に連れていけば有利に戦いができるってわけ。
でも、たいていの人は1~2属性。
3属性以上が供給できる人は滅多にいなくて、見つかると貴族や軍の偉い人のあいだで奪い合いになっちゃうこともある。
そんな世界で、ボクのオーラは7色。全魔法師に供給可能。
うわ~~~~~いかにもな異世界設定だなぁ!
オレ様TUEEEE的なチートスキルは無いっぽいけど、ボク、この世界では、めちゃくちゃ貴重な存在ってことじゃない??
だけど、その異世界設定は、ボクにとっては悪い意味みたい。
「だからラルグさまは、奴隷契約したんですか? ボクから魔力を貰うために?」
「ああ。それだけじゃないけどな」
「ほかにもあるの?」
「魔力の授受はただ手を握っただけじゃ成立しない。契約主だけは呪印から吸収できるが、それ以外は魔法による血液の吸収、あるいは粘膜で交わる必要がある」
「まじわるって………………あ……」
「口づけで構わんのだがな。どうせならいろいろ愉しめるほうがいいだろう? だからお前は、そう考える連中に否応なく狙われる運命にある。庇護下に置かなきゃ抱き潰されて死ぬだけだ」
つまりボクって最初っから性奴隷にされる運命だったわけ?
もしあのオッサンたちに掴まってたら、強姦されたあげく、デブ貴族とかに売られて死ぬまで嬲りものにされるとか、そういうバッドエンドだった?
今さらながらに冷や汗がでる思いでゾッとしてたら、よいしょって後ろに乗ったラルグさまが手綱を操って、馬はカポカポ歩き出す。
アーネストさんとの会話からすると、領主さまのお屋敷に帰るらしい。
場所はここから馬で半日くらい離れたとこだから、今夜は近くの宿場町で一泊して、明日の朝からまた移動するんだって。
ラルグさまのあったかい胸に凭れ掛かってカポカポ揺られてたら、昨夜眠れなくて疲れてたせいもあって、つい寝ちゃった。
- ※変声期前の高い声を保つため去勢された男性歌手。 ↩︎

