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#12 いちおうプロDomですから

Dom/Sub専門医、始めました♪

ナポリタンにコーンスープ、グリーンサラダというシンプルな夕食。
互いにそわそわとした気持ちを抱えたまま向かい合うテーブルの横では、夕方のニュース番組が、女性アイドルのイベント中に起きた暴行事件の概要を伝えていた。

「うぇえ……まぁた無差別Glareかよぉ……」

「このごろ続いてるね」

都内で頻発していたのは、無差別的に放たれたGlareが原因とされるSubの事故だった。とくに徒歩や自転車で通行中だったSubが不用意に受けた威圧によって動けなくなり、衝突事故などを起こすケースが相次いでいる。

ニュースが伝えていたのは、とある発売記念イベント中に起きた事件だ。
イベントに出演していたアイドル女性が過激なファンの一方的な怒りを買ってしまい、撒き散らされたGlareのせいで複数人が昏倒したうえに、騒ぎに便乗した一部のファンからアイドル女性が体を触られるなどの被害を受けたという。

DomとSubの間で起こるトラブルはたいてい、Subの側が泣き寝入りする。
密室で起きる出来事であるうえ、どんな不利益や傷害も「本人が望んだことだ」とDom側にうやむやにされる場合がほとんどだからだ。
だがこのごろ続く事件は、精神的な問題を抱えたDomが公共の場で発生させるものが多く、そうでなくとも偏見が多いダイナミクスへの理解をより遅らせる一因となっていた。

「わたしも……あまり他人のことは言えないな。君が諭してくれなければ、報道に出てくるDomたちのような犯罪者の立場になっていたかもしれない」

テレビ画面を眺めながらつい重い口調で呟くと、すぐに澄生が「ぷはっ!」と吹きだして片手を振った。

「ないない! それはないって、裕司さん!」

そのままくっくと笑い続ける澄生は、片手に持ったビール缶ごしに、不思議の国のチェシャ猫のような顔をして言う。

「オレもまだ付き合いが長いわけじゃないけど、あんたが独りよがりな考えで犯罪を起こせるひとじゃないってことだけは分かるよ」

「しかし、己を制御できなければ暴走する可能性があることは否定できない。常人より力が強い分、Defenceディフェンスにでもなればより被害が……」

「その歯止めのためにオレが居るんだろ?」

気負うでもなくあっさりと答えて、美味そうにグビグビと喉を鳴らす。
真面目に考えすぎる裕司と、あっけらかんとした澄生。正反対な2人だが、おそらくこのくらい違っていたほうが互いの欠落を補えるのだろう。
パートナーが居るというのはこういうことなのかと、自嘲ぎみに裕司は微笑んだ。

「ところで澄生。今夜は泊っていけるのかい?」

「んえ? うん」

「明日の予定は?」

「家でぼ~っとするだけだけど。なんで?」

「じゃあ大丈夫かな。―――きっと明日は……まともに立てないだろうから」

「…………っ!?」

ビールを吹きだしかけた澄生は、拳で口元を拭いながらカッと顔を赤くする。

「い、言ったそばから本気かよっ!」

「だって、エッチもして欲しいんだろう?」

「そ、そうだけどっ。てか、裕司さん男も抱けんの!?」

「言っただろう? だいたいのことは対応できるって。長年Domをやってると、せがまれるのは一度や二度じゃ済まないんだ。……まぁさすがに、わたしを抱きたいという申し出だけは丁重にお断りしたけれど」

「ぶっ……あ、あんた真面目な顔して、そういう……っ」

日頃は気っ風がいいのに、澄生は色事に関してはやたらと初心うぶだ。
首まで真っ赤になったままビールの残りを飲み干すと、スタン!と音を立ててから慌てたように立ち上がる。すでに食べ終わっていた2人分の食器を重ねてキッチンへ運ぶと、洗い物を始めながら「あ」と裕司を振り向いた。

「けど……オレ、なんも準備してきてないよ?」

「心配いらないよ。君と付き合うとなった時点で、それなりに用意はしている」

「そ、そうなんだ……」

「というより、もともとわたしの手元には、やたら小道具が揃ってるんだ」

「ふえ??」

不思議そうに瞬いた澄生に笑って、裕司は寝室の奥へと入っていく。
そしてクローゼットの棚から一抱えの段ボールを運び出した。
その間に洗い物を終えてテーブルへ戻ってきた澄生は、何げなく箱を覗きこんで「うえぇっ!」と仰け反る。

「な、な、な、なんでこんなモンがいっぱいっ!」

段ボールに収めていたのは、いわゆる大人の玩具と呼ばれる道具類だった。
枷や首輪といった拘束具から、男性器・女性器を模した型やバイブ、縄に鞭に蝋燭、ローションにコンドームなど、カラフルなパッケージの商品が色とりどりに揃っている。すべて未開封の新品だが、試供品と書かれたものもあった。

「知人にプレイ用品の卸しをする会社の営業をしてる奴がいてね。新商品が出るたびに勝手に送ってくるんだよ。わたしもいちおうプロDomだから」

「あ、なるほど、そういう」

「……試してみたければ、どれでも使ってあげるよ?」

「はうっ! きゅ、急にオスっぽさ全開にしないでくれよっ!」

顔を覆って赤面する澄生の様子に裕司は(……可愛い)とほくそ笑む。
いったい自分がどんな顔になっているのか知らないが、きっと澄生の言うとおり欲望丸出しの獣のような表情なのだろう。

今までは無意識に蓋をしていた猛々しさを、澄生の前では抑えなくて済む。
そのことが、思った以上に裕司を興奮させていた。

「―――澄生」

腰に手を回し、指の隙間から見上げた澄生を抱き寄せる。
触れ合う布越しに伝わる体温はすでに日頃知るものより高い。こめかみに添えた指の下にある脈動も、青年の高ぶりを表わして顕著だった。

「いまから君は、わたしの操り人形だ。覚悟はいいかい?」

「お、おう」

「お仕置きする以外で痛めつけることはしないよ。ただ少し、苦しい思いはさせるかもしれないけどね」

「だい……じょぶ。だてに、鍛えてたわけじゃ……ねぇから」

眼差しに籠めた僅かなGlareに澄生は早くも陶然となりかけていた。
プレイが白けるなどと、どの口が言ったのかと思えるほどに、再会したあの日からこの体はとても従順だ。いとも容易く手の内へおちてくる。

単に相性が良いだけではないのだろう。
澄生は最初から裕司の腕を信じ、すべてを委ねてくれている。だからこそこれほどまでに深く入り込めるのだ。
そうまで信頼されたなら全能で応えずに居られようか。

服のうえから臍の下あたりへ指を這わせ、情感たっぷりに裕司は囁いた。

「今日はここを、犯してあげるよ」