「ん? どうした?」
「うぅ……なんか……ちょっと……」
澄生は赤い顔のままモジモジと膝を揺らしている。
見れば膝と両腕のあいだで、ゆっくりと自己主張を始めているものがあった。
「ああ。もう……感じちゃった?」
「あう~~っ」
恥ずかしそうに首をすくめた澄生は「だって!」と声を張りあげた。
「こ……こんなハッキリと気持ちいGlareを感じたのは久しぶりでっ! それになんか……全身を撫ぜられてるみたいな感じで、ゾクゾクしっぱなしだしっ!」
「ふうん? 君にはそう感じるんだね」
「あ、あん時も、こんな感じで。ず……っとオレ……忘れられなかったから……」
「へぇ。ということは、わたしに、こうされたかったんだ?」
下から顎を掬いあげて顔をあげさせる。
途端にビクッと震えて視線を逸らしかけたのを「《見て》」と縫いとめた。
かあっとさらに赤くなった澄生はぷるぷると震えている。
よそ見を禁じられた瞳の間は困ったように寄せられたまま。まるでハートマークが見えるような表情だ。
「そう。視線はそのまま。《じっとして》」
「……う……あ……あぁ……」
「わたしのGlareが忘れられなくて、こうされることを待ち望んでいたの?」
「は……はい……」
「ふふ。素直だね。可愛いな」
「うう……す……すご……ゾクゾク止まんない……気持ち良すぎて、なんか頭が……」
「Spaceかい? うん、いいよ」
持ち上げた右手の親指の先で唇をなぞる。
すぐにうっとりという表情になった澄生は、視線を合わせたまま、ちろりと覗かせた舌先でその指を舐めた。生々しい感触が裕司の情欲までもを刺激する。
ごく自然に顔を近づけていた。
なにがハードルを超えさせたのか。分からない。
ただ、相手が同性で、つい2時間ほど前に再会したばかりの地元の後輩であることなど、すっかり頭から消え去っていた。
形のいい唇の狭間から覗いた赤いそれに舌先で触れる。
逃げかけた舌を追って深く唇を重ねると澄生は「うう」と喉の奥で鳴いた。
至近距離から浴びせられる強い眼力にはぁはぁと吐息を震わせている。それでもなお理性を失うことなく耐えていた。
(これはいい……ここまで応えてくれる子は、初めてだ……!)
これまでプレイ相手をしてきたSubは数知れず。
しかし裕司のランクが高すぎて、少し威力をあげただけでSub Spaceに溺れるか委縮してしまう相手がほとんどだったために、いつも本気を出せずにいた。まるで猛獣が小動物を相手にするような、そんな物足りなさをずっと感じ続けていたのだ。
仕方がないと諦めて。
無自覚に乾き続けていた心が、一気に満たされていくような気がする。
―――欲しい。このSubが。
それは、自分のDom性を自覚して以来、初めて感じる欲望だった。
どうすればいい? どうすれば彼を虜にできるだろう?
怯えさせてはダメだ。逃げられてしまう。なるべくならば穏便に。
そう心は警鐘を鳴らすものの、嬲ってやりたいと湧き上がる衝動を抑えられない。
「……エッチなことも、して欲しいんだったかな?」
「ふぇ? あ……はぃ……」
「そうだろうね。こんな、若い体なんだし」
淡い褐色の肌に飾られた慎ましやかな突起を、指先でつまんで押しつぶす。
ビクッと跳ねた体は、グリグリと捏ねまわす指の動きに反応して面白いように跳ねまわった。緑色の布地を押し上げる股の間のソレも、いよいよ形をはっきりとさせている。
「《立って》」
布地が窮屈なせいで動きづらいのだろう。よろよろと立ち上がる。
裕司は自分の膝をトントンと叩いて微笑んだ。
「ここへ《座って》」
「……えっ」
「どうした? 《座れ》だよ?」
「う……あうぅ……」
澄生は全身を真っ赤にして震えながら、恐る恐るという仕草で裕司の肩に手を掛けた。
すっかり勃ち上がってしまったそれを遠ざけるように、微妙に尻を浮かせたまま、向かい合わせに太腿を跨ぐようにして腰を下ろす。
「ふふ。《いい子だね》」
膝の中ほどに留まる腰に片腕を回して、強引に引き寄せる。
その拍子にグリッと硬い感触のソレが裕司の下腹へと擦りあわされた。ううと呻いた澄生は、快感を逃そうとしてか、引きぎみに腰を揺らしながら荒い息を吐く。
「や……やば……これだけで……イっちゃいそ……」
なんとも素直な呟きに、思わずニヤリと笑みが零れた。
「この程度で満足なのかい? もう、やめておく?」
「や、やだっ」
「じゃあもう少し頑張って」
目の前にある小さな飾りを舌で転がす。とたんに耳元にかかる吐息が甘くなった。
片腕で背中を支えながら、腹に触れていた膨らみへと指を這わせると、澄生は「ああっ」と甲高い嬌声をあげた。
切なげな表情を愉しみながら、染みを作っていた先走りの液を指の腹で塗り込める。
「あ、あっ……せんぱ……っ」
「こんな時くらいは名前で呼んでよ。澄生くん」
「ゆ……裕司……さん?」
「うんそう。気持ちいい?」
「あ、い……んんっ!」
先端を弄り回し、しばらく喘がせてから布地をずらすと、ブルンと勢いよく飛び出てきた。やや細身だが、すべすべとした質感で形の整った薄紅色の陰茎だ。
「ここも、綺麗な形をしてるんだね」
思わずうっとりと眺めつつ呟いた。
職業柄、性器など男女問わず飽きるほどに見ている。
形も、大きさも、色艶も。様々な形状のモノを見慣れているはずなのに。
なぜこれだけに、この艶めかしく温かい澄生の陰茎にだけ「そそられる」と感じるのだろう?
「う……あ……ぅふ……」
「ぬるぬるだね。こうして、ちょっと弄っただけで、弾けちゃいそうだ」
「やっ……だめっ……ほ、ほんとにすぐイっちゃうからっ……!」
背中をふるりと震わせた澄生は、両手を突っ張って体を遠ざけようとする。
「そんな可愛い反応をされると、意地悪したくなるな」
俯いた顔を覗き込むと、一瞬怯えるようにヒクッと首をすくませた。
軽く口づけた瞳に烟る情欲の炎。まるで犯してくれと言わんばかりだ。嗜虐心を煽るその表情にさらなる愉悦を覚えながら、耳元へ優しく囁いた。
「いいかい? わたしが許すまで《射精禁止》だ」
「あっ……!?」
「我慢できなければ、お仕置きだよ?」
「う……そ、そんなコマンド……あった……の……?」
澄生は呆然と呟いて自分の股間を見下ろした。
おそらく出したい衝動と堰き止めようとする感覚とが、本人の意志に反して交互に繰り返されているのだろう。薄い下生えの覆う根元がビクッビクッと幾度も波打つ。
「ああっ……やっ……やだっ!」
先走りで濡れそぼった亀頭をグリグリと嬲ると、澄生はヒッと叫んで背を縮めた。
強い刺激に耐えられず逃げかけた腰をガッシリと固定する。
「逃げちゃだめ。《じっとして》。そのまま我慢だ」
「やっ……っ! あぁっ!」
さらに根元から強く扱きあげると、澄生は熱に浮かされたような表情のまま、ポロポロと涙を零して身悶えた。
「や……だ、や……! も……も、やっ……裕司さ……!」
澄生はSub spaceに入ったままになっている。
完全に裕司のコントロール下にあるせいで、体は命令に従おうとし、どんなに射精感が強まっても自分の意志ではイくことができないのだ。
「ごめん。あとちょっとだけ……この姿を堪能させてくれ」
許してと泣きじゃくる様を眺めながら、裕司は途方もない征服感に酔いしれていた。
頭の芯はとうに痺れ、気づけば自分自身も熱を持ってしまっている。
これ以上の無理を強いれば嫌がられてしまうかもしれない。そう思いながらも暴力的なまでに込みあげる欲が止められなかった。
「ううぅ……も……もうやだ……イきたいぃ~~……」
「そうだね。そろそろ、許してあげようか」
ひっきりなしに嬌声をあげる唇を塞ぎ、震える吐息を堪能する。
そしてゾクゾクとした支配欲に体中を熱くしたまま、最後のコマンドを囁いた。
「よく耐えたね。《イッて》もう出していいよ」
「ひぁっ! あ、あ、あ~~~~~~~~~~っ!!!」
大きく仰け反った澄生の身体が波打った。
先を握っていた裕司の手の中で、熱い飛沫が弾ける。
勢いよく吹きだしたそれは、指の間をすり抜けて飛び散り、穿いたままだった澄生の下着や裕司のズボンを濡らす。長く堰き止められていたぶん、分泌量も半端ではなかった。
ついと香った雄の匂い。覚えのあるそれが裕司の理性を呼び戻した。
ハッと気づけば、澄生は腕の中で意識を失っていた。
慌ててベッドへと横たえて体の状態を確かめる。幸い顔色はよく、心拍も呼吸も正常。単に射精の衝撃で目を回しただけのようだ。
とたんに罪悪感が押し寄せた。
いままで失神するほどプレイ相手を追い詰めた経験はない。
常に冷静で。どんなSubに対しても思いやりをもって接する癒し系Dom。
それが自分自身も志してきた姿であったはずなのに。
「わたしも結局、支配欲を持つ性、だということか……」
ずっと寝不足だったせいだろう。
そのままスースーと気持ち良さげな眠りに落ちた澄生の寝顔を眺めながら、裕司は複雑な思いに唇を噛みしめていた。

